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Vol.23 「完成披露試写会」 (2005/09/03)

『仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼』
『魔法戦隊マジレンジャー THE MOVIE インフェルシアの花嫁』

今秋から、戦隊シリーズの劇場版が、二本立てで公開されます。
劇中で町娘役として少しだけ出演している縁もあり、先日、完成披露試写会の司会をしました。
「みなさん、こんばんはー!」
「こんばんはー!!」
鈴が鳴るように、かわいらしい声が一斉に返って来ました。
思わず嬉しくなって、おのずと口調は歌のお姉さん風になっていきます。

上映前には、出演者による舞台挨拶がありました。
テレビのヒーローたちが目の前にいるものだから、
歓声や興奮して咳き込む声が入り混じって、会場の温度はぐいぐいと上がっていきます。
「こんばんは!マジレッド役の橋本淳です!」
―その直後、甲高い声が制しました。
「マジシャインの方がかっこいいー!」
「…!!!」
マジシャインとは、レッドやピンクやブルーを率いる、戦隊の先生です。
ところが、一瞬青ざめたのは私だけで、
小さな男の子の素直な声援に、会場全体は温かい空気に包まれました。
「でも、マジレッドも応援してね!」と、すかさずマジレッド。
出演者と観客が、ふわりと束ねられた瞬間でした。

思えば長らく、戦隊シリーズにはご無沙汰していました。
今回、映画の撮影に参加することで、ヒーローになりきっていた幼き日を思い出します。
フィギュア、文房具…関連グッズがどうしても欲しかったこと。
やっと買ってもらった戦隊変身スーツに身を包み、
社宅のベランダから飛び降りようとして、慌てて母に止められたこと。
近所の神社にヒーローたちが大集合した日、全身真っ黒の悪役を見て大泣きしたこと…。

あれから20年以上が経ち、今や、母親の年齢になりました。
公園でわが子を遊ばせるお母さん。
炎天下、日傘をさして映画館の前に並ぶお母さん。
私にも、そういう日々がくるのでしょうか。

平日の鈍行電車。
がらがらの車内に、母と子の声が響いています。
「おかあさん、でんしゃ、でんしゃ!」
子どもは知っている言葉を、ただただ繰り返します。
見たものを、そのまま、素直に。
「そうね、速いねぇ」
母親も、それに応えます。子どもと同じ目線で。
「あの鳥さんと、どっちが速いかな?」
いつの間にか、私も心の中で会話していました。


(「日刊ゲンダイ」9月3日発刊)
   
 
 
    
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