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Vol. 2 「デカレンジャーショー」 (2004/06/12)

5月最後の休日。
東京ドームシティに「特捜戦隊デカレンジャーショー」を見に行った。
友人の知り合いがデカピンクのスタントマンで、その縁もあってのことだ。

滴るソフトクリームにも気付かないカップル、
焼きそばの匂いがする場外馬券売り場で中継を凝視するおじさん、
そしてメガホンを首から提げた野球少年の間をすり抜け、
若い親子に混じって、テーマソングが大音響で流れる会場へと足を踏み入れる。

デカレンジャーのフィギュアを握り締めた子どもたち。
つばの広い帽子で、日焼け対策を忘れていない若いお母さん。
「おいしいぜ!」と自信満々に書かれた、デカレンジャーポップコーンバケツ。
熱気と、日焼け止めの匂いと、商魂が渦巻く空間に何だか手持ち無沙汰になって、
遠くで聞こえるジェットコースターの音を、私はぼうっと聞いている。

突然、怪獣が現れた。
恐ろしげな形相で暴れまわる姿に、隣の子どもがわんわん泣き出した。
余裕の笑顔で抱っこしてあげるお父さん。
「変身スーツの中はさぞかし暑いだろうなぁ…」なんて、私はぼんやりと考えている。

ショーが終わっても、この日のヒーロー、デカレッドとの撮影会に並ぶ親子の列で熱気は冷め遣らない。
お母さんが至近距離で構えるカメラの前で、子どもたちは必死にポーズをとっていた。

「みんなーっ!今日は楽しかったかな?
でも、良い子は絶対に高いところからジャンプしちゃだめだよ!」

司会者が声高に叫ぶ。
小さい頃、アニメ「パーマン」の変身セットを買ってもらい、
社宅の階段から飛び降りようとして、慌てて父に止められたことを思い出した。
   
後ろで、カチ、カチ、と音がする。
振り向くと、男の子が必死でプラスチックガンを、舞台上の怪獣に向けて撃っていた。
そうだね、敵をやっつけないといけないよね。
子どもの目の高さに気付くのは、本当は母親になってからなのかもしれないけれど。

ほら、口が開いているよ。
ハンカチでよだれを拭いてあげなきゃ。

子どもの心を奪うヒーローたち。
でも本当のヒーローは、ここに連れて来てくれたお父さんやお母さんであることに、
この子たちは、ずっと大人になってから気付くんだろうな。


(「日刊ゲンダイ」6月12日発刊)
   
 
 
    
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