詩は、数行で世界を描く。
絵画は、額の中で世界を彩る。
両者に共通するのは、詳しい筋書きや解説は要らないということだ。
綴られた言葉や描かれた色彩に想像力を膨らませ、人は自らの物語を紡ぐ。
8分間の映画である。
台詞はない。ペンシルと木炭だけで描かれた線と、アコーディオンとピアノで奏でられる背景音楽「ドナウ川のさざ波」。
土手に向かって自転車で走る父と娘。父はそこからボートに乗って川へと漕ぎ出すが、帰って来ることはなかった。娘は成長する。恋をし、結婚もして、家族もできる。母としての役割を終え、川はいつしか葦原になってしまった。それでも変わらず、娘は岸辺に立ち止まり、父を思う。
まるで、自分が岸辺に佇んでいるような気にすらなる。
自転車の車輪の軋み、吹き付ける風の臨場感。
詩の行間に漂う感覚に似ている。余韻、とも言うべきだろうか。
先日、井の頭公園に散歩に出かけた。夕陽が池の水面に反射してフレアスカートのように揺れる中、皆が岸辺に佇んで、暮れ行く空を見ていた。
「空がオレンジ色ね」
若い母親は言った。
手を引く幼い女の子に、夕焼けを教えるため。
「空がオレンジ色ね」
誰かと一緒なら、私も言いたかった。
見れば分かることを口にするのは、同じ時間を確かめ合いたいから。同じ場所にいることを、忘れたくないからだ。
「空がオレンジ色ね」
夕焼けを知らなかった幼い女の子が、いつしかおばあさんになった時。
隣で手をつないだおじいさんと、その美しさを分かち合って欲しいと思った。
恋人ができて、結婚して、家族をもって。
それでも、自分を生んでくれた人を思い続けること。
季節は繰り返す。
情景の絵筆で気持ちを描くとき。
届ける相手がいなくなっても、私の中にはきっといる。
■作品データ/『
岸辺のふたり』
監督・デザイン・ストーリー:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
音楽:ノルマン・ロジェ、ドゥニ・シャルラン
配給:クレストインターナショナル/2000年/イギリス・オランダ/8分
※お正月、テアトルタイムズスクエアにてモーニング&レイトロードショー
『岸辺のふたり』公式HP:
http://www.crest-inter.co.jp/kishibe/ |
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試写室には、偶然にも西脇さんの姿が…。
隣どうしで鑑賞後。
ふたりは、しばし無言でした。 |
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