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Vol. 7 12月18日 『船を降りたら彼女の島』

 
今回は、『船を降りたら彼女の島』をご紹介。

一人で暮らす女性たちに見て欲しい映画。

東京で暮らす久里子(木村佳乃)は、出版社勤務の25歳。彼女には、報道カメラマンの婚約者(村上淳)がいる。
彼女の実家は「瀬ノ島」という、愛媛県内にある架空の島。
久しぶりに実家に帰った目的は、恋人との結婚を報告すること。

私の父方の田舎も、愛媛県に浮かぶ「大島」である。
思い返すと、十年以上訪れていない。結婚の報告も、まだ、ない。

さざ波が光る、一面の瀬戸内海。山の緑には、夕陽が灯ったような蜜柑の色彩。
彼女と同じ故郷を持つ自分には、遠く懐かしい風景だった。

久里子の突然の帰省に「何かあったのでは」と、気がかりでいても聞きだせずにいる父親(大杉漣)。
「お父さん、私…」。なぜか伝えるべき言葉を飲み込んでしまう久里子。

そういえば。
実家に帰った時、私の父も寡黙だ。
私が帰ることが分かると、父は必ず包丁を研ぐ。
「祐子が帰ってきたら、包丁がよく切れるから食事を作るのが楽だわ」。
母の言葉の奥に、父の「お帰り」が見えた。

親元から離れて、何年になるだろう?
実家では、家族は「記憶」ではなく「現実」として存在している。私の東京での生活と何ら変わりなく、彼らは寝て、起きて、食べて、働く。それなのに、ここに来て自分を包みこんでくれているような安心感と、わずかな戸惑いを隠せないのは何故だろう。

帰郷とは、自分の存在を確かめること。たとえ街並みが変わっても、両親が歳をとっても、私の居場所は変わらない。
普段夢中で走っている自分は、何と脆いのだろう。
そんなことをふっと思う。

 

 

「ただいま」「お帰り」
「行ってきます」「行ってらっしゃい」

港に立ち寄った船が再び出港するように、久里子もまた、東京へと出て行く。

一人で暮らすことと、一人で生きることは違う。
帰る場所を、育った風景を。
自分の存在を確かめて、私は生きていきたいと思った。

■作品データ/『船を降りたら彼女の島』
監督・脚本:磯村一路
撮影:柴主高秀
出演:木村佳乃、大杉漣、照英、村上淳、ほか
配給:アルタミラピクチャーズ/2002年/日本/112分

※衣山シネマサンシャインほか、愛媛県内で上映中
※2003年2月東京・有楽町スバル座、大阪・ナビオTOHOプレックスにて公開予定

■「いつかお会いしてみたいです」と村上アナに言わせた、この作品の監督は『がんばっていきまっしょい』、『群青の夜の羽毛布』の磯村一路監督。「主人公の境遇といい、故郷といい、自分と重なる部分があまりにも多く、全く客観的に見ることが出来ませんでした。試写会場では、涙がぽろぽろと…」という村上アナでした。

■『船を降りたら彼女の島』公式サイト
http://www.altamira.co.jp/kanojo/

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