- 170cm
- 福岡県福岡市
- 日本女子大学附属高等学校→
日本女子大学 - 2001年4月1日
- 蠍座
目白駅で降りたのは15年ぶりだった。
改札を出て左手に鯛焼き屋、右手に進むと学習院大学。
横断歩道を渡って、女子大行きのバスを待つ。
土曜ダイヤの直通バスには自分ひとり。
目白通りをまっすぐ走ると、懐かしい校門が見えてくる。
記念講堂の前には、「高等学校入試説明会」の看板が立て掛けられていた。
今日はこの場所で、卒業生として話をすることになっている。
中学から大学まで通った母校への思いは強い。
お世話になった先生方と再会するや、控室はにわかに華やぐ。
「あら、また背が伸びたのね?」
「先生、メガネ変えました?」
「あ、ほらほら、もう始まるわよ」
校長先生の挨拶、授業のカリキュラム、入試要項の説明。
その後、紹介を受けて登壇する。
アナウンサーは、「伝える」仕事です。
では、何を。
世の中で起きていることを、分かりやすく、正確に。
それらの情報を整理して、時間どおりに伝えることが第一です。
ここ数年、ジャーナリストの田原総一朗さんとご一緒しています。
田原さんは常々、「あなたはどう思うの?」とおっしゃいます。
情報を伝えることが、アナウンサーの大前提ではありますが、
「知る」と同時に何かを「感じる」のは、確かに、ごく自然なことです。
先日、『朝まで生テレビ!』で日本の戦争を議論した際、
番組の冒頭で、突然田原さんが「村上さん、戦争って悪いと思う?」と問われました。
「悪いと思います」
「何で?」
「多くの人々が命を落とし、平和とは対極にあるものだからです」
「でも、世の中には“正しい戦争”と“間違った戦争”があると言う人がいるよ」
「それは、“自衛戦争”と“侵略戦争”ということですか?」
戦争とは何か。
自ら意見を述べなくとも、考えた上で胸にとどめる。
その大切さを、最近とみに感じています。
思い出すのは、附属高校での三年間です。
現代文では、三島由紀夫やドストエフスキーの小説を読んで意見を交わす。
倫理では、歴代の哲学者たちへの、自分なりの解釈を発表する。
私はこう思う。
あなたはどう思う?
歳を重ねるごとに、知識は増えていきます。
情報に触れる機会も多くなります。
田原さんから「どう思う?」と問われる度、
高校時代の自分からも、世の中と向き合う姿勢を問われている気がします。
登壇の前。
古文の授業を例に、教育課程の説明が行われた。
徒然草 第九十二段
「ある人、弓射ることを習ふに」
初心の人、二つの矢を持つことなかれ。
後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。
毎度、ただ、得矢なく、この一矢に定むべしと思へ。
(初心者は、二本の矢を持ってはいけません。
二本目の矢をあてにして、最初の弓を疎かにしてしまうからです。
毎回、弓を射る時には、当たる外れると考えず、この一本で仕留めようと思いなさい)
その中で、一人の生徒の感想文が紹介されていた。
「私は“一矢に定むべし”とは思わない。
失敗した時は、立て直しこそ大切だ。
その場限りに全てを尽くすのではなく、
物事を段階的、大局的に判断する視点も必要ではないか―」
おそらくは、“定むべし”という声が大半だろう。
独自の視点を頼もしく思う一方で、「同調圧力」という言葉も浮かぶ。
私はこう思う。
あなたもこう思え。
説明会が終わると、終バスの時刻を過ぎていた。
駅前の鯛焼き屋を目指して、目白通りを歩く。
異なる意見を、どう聞くか。
あなたは、どう思う?