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8月11日 北京五輪をより楽しむために Par3
〜室伏広治 ハンマー投げにかけて〜

どうすればハンマーの回転スピードを上げることができるでしょうか。

両足がついているときに、加速できる体制にあり、片足になったときは減速していきます。
また、ハンマーが高い位置から低い位置に移るときにも加速されますが、低い位置から高い位置に移るときは減速していきます。
このように加速と減速を繰り返しながら4回転し、最高速度に達した瞬間、手から離れていきます。


  


こうしたいデータをもとに、室伏選手は新しい自分だけの技術を探ってきました。
今年6月には、中京大学の学生を対象にした講演会で、アプローチのひとつが披露されましたのです。

室伏広治:「水色が3月、濃い青が5月、1回転目、2回転目、3回転目、4回転目、これ最後のリリースなんですけれど、リリースの所はほぼ一緒なんですけれど、今の方が緩やかなカーブを描いていますよね。最終的には一緒になっている。よりゆったりした動きになっているんで、自分の思っているとおりになっているのかなと」


 


北京オリンピックに向けて、室伏選手はひとつの動きのイメージをつかんだようです。

室伏広治:「すごくやわらかい動き」「どっちかっていうと、鞭(むち)運動のようなやわらかさ、鞭は先端がマッハ、音速を超えますから、先端がびしっと来るようなそうした動き。」

理想の投法を身につけるために、ユニークなトレーニングを次々に開発していきました。
大切なのは理論を自分の中にある感覚に置き換えていく作業です。
ハンマーの錘で骨盤がそらないようにしながら臀部や脚の筋肉を鍛えます。
広げる感じを体得するための投網を使った練習。
ロープに体を巻きつけ、動きの連続性を探ります。
ハンマーが飛んでいくイメージも体に覚えさせていきます。


   


北京オリンピックの年、最初の試合は、6月27日、川崎等々力競技場で行われた日本選手権となりました。
新しいイメージでの投擲を試す絶好の機会です。
アテネの時の鋼のような動きから、ムチのようなしなやかな動きへの転換。
練習でトライしている投げ方が、試合の中でどう変わってくるのか、不安と期待が交錯します。




体が徐々に動き始めてきた5投目。
80m86。

そして、最後の6投目。
ナイター照明の中に吸い込まれるように飛ぶハンマーは80m98。


  


室伏広治:「階段を一歩一歩上っているように順調に来ていると思います。」

進化し続けて、日本選手権14連覇達成。
求めてきたものに間違いはなかったようです。


父、室伏重信教授ははっきりと言いました。
室伏重信:「方向性としてはつかんだと思います。この2ヶ月3ヶ月でね。ですからそれは今回のオリンピックもそうなんだけれど、通過点かわからない。」
宮嶋: 「オリンピックの先に何かがある?」
室伏広治:「ですから来年、再来年が面白いなというような動きを持っている。」

世界記録まであと188センチです。



北京オリンピックに向けて準備が順調であることは、母校中京大学で7月21日に行われた記録会・チャレンジカップで明らかになりました。

1投だけファウルになったものの、後はすべて80m超えで、最高は81m87。
今シーズン世界3位の記録です。
抜群の安定感を披露し、着実に自分の形を作りつつあることが伺えました。


 

理想の投擲を求め、自ら研究をして、トレーニング方法を工夫し、実践をする33歳。

 
 

室伏広治:「自分の心の中に自分が本当に感じることを表現していくことが大事ですから。自由な表現ですからスポーツは」









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【編集後記】
「心の中に自分が本当に感じることを表現することがだいじですから。自由な表現ですから、スポーツは」
室伏広治さんが求めているものは、芸術と同じなんですね。スポーツの崇高さを教えてもらったような気がします。

それにしても室伏さんが新たな投法「鞭のような柔らかな投げ方」に開眼したのは、3月に腰椎捻挫、いわゆるぎっくり腰になったときに、3週間ずっとベッドで横になっていたとき。一歩引いて考えたときに見えてきたものがあったそうです。

どんなときでも頭を離れないハンマー投げのこと。
その研究をして、新たなスタイルを構築し、自分で試す。
とても素敵な人生ですね。
そして、それを支えているのが、投擲ファミリー、室伏家の人々なのです。
お父様や妹由佳さん、そしておばあちゃんたちの力に支えられて、広治さんがいるのですね。

北京の空にハンマーはどんな放物線を描くのでしょうか。
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