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1月26日 WASEDA Club 2000、地域住民と大学を結ぶクラブ

 
ニュースステーションで2月28日に放送予定の特集は、市民のスポーツを考える企画です。
早稲田大学のスポーツ科学部の教員たちの提案で始まった住民主体のクラブ「WASEDA Club 2000」についてです。
その概要をお伝えしましょう。

総合型地域スポーツクラブという言葉をご存知ですか?
この言葉が世間に登場してから十年近くなります。
2000年9月、文部省が発表したスポーツ振興基本計画には、総合型地域スポーツクラブの必要性が説かれ、2010年までに、成人の50%が週に一度スポーツをすることを目指すとしています。
以来、日本の各地で新しいクラブ作りが試行錯誤で行われています。

宮嶋「そんな中、早稲田大学と所沢市が一緒になって、その地域の人々のための新しいスポーツクラブを作ろうという試みが始まりました。」

地域住民と大学を結ぶクラブ

10月の体育の日、早稲田大学の所沢キャンパスが市民に開放されて、4回目を迎える大運動会が開かれていました。全天候の400mトラックを走る感覚は特別です。
参加した中学生に話を聞いてみると、
「緊張する」「感触が違う」などと答えが返ってきました。
小学生も中学生も、こんな立派な400mトラックを走るのは初めての経験だそうです。
5000mに出場したお父さんも、
「いい環境で走れたんで気持ちよくいい汗かけました。」とご満悦の表情です。

キャンパスが市民に開放されているのは、何も体育の日に限ったことではありません。
学生と一緒に、様々な年代の市民が歩いているのは、毎日のことなのです。

大学の体育館を覗いてみると、そこには太極拳に打ち込む人々の姿がありました。
彼らは、通称WASEDA Club2000の会員たち。
正式には、所沢市西地区総合型地域スポーツクラブの会員です。

地域の住民が、大学の施設を使ってスポーツを楽しむことを目的に、4年前、に作られました。早稲田大学のスポーツ科学部と所沢市民を結ぶクラブです。

この新しいシステムを提案したのは早稲田大学スポーツ科学部の教員たちでした。

早稲田大学スポーツ科学部、木村和彦教授はこう言います。
「授業とか研究とか、そういうもので使っていない時間帯ってあるわけですよ。それ言うものを地域の人たちに開放してあげただけですから。」

WASEDA Club 2000の前会長で、早稲田大学スポーツ科学部教授を昨年3月に退官された 佐々木秀幸さんはこんな話を聞かせてくれました。

「初めのうちは抵抗あったんですよ。お母さんが子供をしょって大学の廊下うろうろしているんですからね、事務所どこですかって。何だなんだって言うことで。今は全く違和感ないですし。」

太極拳の指導もしているスポーツ科学部 宮内孝知教授は早稲田大学が目指しているグローカル、すなわち、目はグローバルに、地に脚の着いた活動はローカルに、を説明してくれました。

「今調査しているんですが、地域の活性化に役立っているかはわかりませんが、これはグローカルな視点にたっての行動なんですよ。」

このクラブの核となっている活動は会員300人のウォーキングですが、そのウォーキングを指導している中村好男教授は現状を公分析してくれました。

「本当に手探りで、まだ、どこへ行くのかわからない部分がありにせよ、新しいスポーツの形態を模索していると言う意義がありますね。」

  中村好男教授

大学の施設を利用するというこのクラブの試みは、全国に先駆けたもので、現在、会員は1300人。4年を経た今では学生食堂でクラブ会員の姿が見られるのも当たり前になってきました。ウォーキングからテニス、陸上競技など14の活動プログラムが行われています。

学生食道でくつろぐ会員たち

なんと言っても豪華なのが指導スタッフです。
チビッ子レスリングの指導をするのは太田章助教授です。
オリンピック日本代表となること4度。84年ロサンゼルス五輪と88年のソウル五輪で銀メダルを獲得しています。

太田助教授は子どもたちにこんな期待を抱いています。

「気軽にいろんなクラブに顔を出しながら、自分の可能性を見つけ出してほしいですね。あるスポーツではあまり活躍できないけれど、他のスポーツならチャンピオンになれる要素を持っている子供はたくさんいるはずですから、自信を持ってもらう意味でも、そうしてほしいですね。」
子供の頃からたくさんのスポーツを経験し、柔道からレスリングに転向してきた太田さんならではの指導方針です。

太田章助教授

陸上競技では、かつて長距離界のエースとして活躍し、現在競走部のコーチとして早稲田に戻ってきた渡辺康幸さんや、短距離選手としてオリンピックに出場している土江寛裕さんがコーチングスタッフに名を連ねています。            
中学生に日本を代表するトップアスリートからの貴重なアドバイスが送られます。
みんなはどう感じているのでしょうか。

宮嶋「オリンピックに出場した選手に教えてもらう気持ちはどう?」
中学生「なんだか信じられない。」
中学生「テレビ見てても身近だから違和感ない。」

長距離界のエース 渡辺康幸選手 アトランタ五輪100m 土江寛裕選手

日曜日の朝、子どもたち対象に、ジュニアテニスを教えているのは、宮城淳さん。
1955年の全米オープン男子ダブルスで加茂公成選手と組んで、優勝をした名選手です。
テニスコーチであると同時に、宮城さんは現在、WASEDA Club 2000の会長もつとめています。

「明治から学校体育で日本のスポーツは成り立ってきて、それが競技スポーツ主体で来ましたよね。今それだけでは成り立っていかないと言うのがわかって、これからは日本のスポーツをもっとみんなのものにしていく、ヨーロッパのクラブシステムにならうと言うんですかね、文部科学省も奨励していますよね、早稲田はその先取りをしたということですね。とてもいいことだと思いますよ。」

宮城さんは今は、選手育成よりも楽しさを優先して、子供たちにスポーツを教えたいといいます。

WASEDA Club 2000 宮城 淳 会長

50歳以上の会員が集うシルバーフィットネスは老いてなお盛んな人々で熱気むんむんです。

男性会員「歳を取ってからも体がいつまでも動くように。」
腹筋運動を一生懸命やっていた男性会員は「これ一番きつい」
笑いながら話す男性会員「おなかが引っ込めばいいんだけれど、引っ込まないんだよね」
宮嶋「何でここに来ようと思われたんですか?」
女性会員はさすがシビアーです「ほかは高いじゃない。それ!」

このシルバーフィットネスは半年で7000円。
一月平均1166円・・・これは安い!

しかし、この低料金が原因で、今、深刻な問題が持ち上がっているのです。
大学に1時間3000円の施設使用料を払うと、人数の少ない活動では、赤字になってしまうのです。
たとえばテニスの会費は半年で6000円、 一月平均1000円です。
新体操の会費は半年で14000円、一月平均約2333円です。

新体操では、指導者の太田真理子さんが、保護者を集めて説明会を開いていました。
「うちが一番頭抱ええているのは赤字なんですよ。賃金85000円とかいてありますが、私去年からぜんぜんいただいていないんです。その分が赤字の埋め合わせにいっているということなんだそうです。」

新体操の大田真理子さん  
保護者への説明会

この赤字問題を検討するために、クラブの会員や指導者の代表、市役所の職員など、財務委員会のメンバーが所沢市役所に集合しました。種目が違えば意見も違います。

「どれだけやれば、どれだけお金が出るということにシビアーでない種目もあったと。」
「残高はどうなっているのか」
「出るものは出るんですから。」
「自分たちと何の関係があるのかね。」

住民主体のクラブだけに、問題は自分たちで解決しなければなりません。

宮嶋「大学の所沢キャンパスに近い中学校です。この学校にWASEDA Club 2000 クラブハウスが空き教室に出来たんです。」

市立三ヶ島中学校の空き教室に、4年目にして念願のクラブハウスができました。さらには去年10月から専任の有給マネージャーが配属されました。一つ一つの種目の活動が充実していく反面、クラブとしてのまとまりに欠ける点をいかに克服していくか、赤字解消も含め、マネージャーに求められる仕事は多岐にわたります。

まだまだ問題点はありますが、このクラブの最大の魅力は、学生たちが会員をサポートしていく点ではないでしょうか。
ウォーキングでは、ルートを決定したり、健康管理面のサポートを学生がしていきます。

会員「今日は雨だけれどね。」
会員「私は雨でも雪でも来ますよ。」

雨のなかを仲間と一緒に歩くのもまた楽しいようです。
会員「ああ、もみじ、」
学生「まだついてますね」
会員「まだね」

学生「それでは心拍数の方を計ります。」
サポートをする学生には一時間700円が支払われます。

会員は学生についてどう思っているのでしょうか。
「学生がいないと続かない。」「だらけちゃうかもしれない。」

一方学生はこうコメントします。
「こういう活動が運動習慣の改善になると思いますし、僕たちもいい活動をしているのかなって、ちょっといいすぎかな。」

「私は一人暮らしなんですけれど、いっぱいおじいちゃんおばあちゃん、お母さんが出来たような感じで、すごく楽しいです。」

「不得意な足だけの試合始めます。」

中には子供たちを教えながら、様々なトレーニング方法を試して、卒業論文の資料にしている学生もいるようです。

宮嶋「一石二鳥ですね、指導と研究が一緒にできるなんて。」
指導をする学生、平山君「子供たちに感謝してます。」

日曜日の午後の陸上競技のグランド。子供たちから、ランニング愛好家まで広い年齢層の人々が集っています。

早稲田競走部のメンバーには、将来教員を目指している学生が多いせいか、皆楽しみながら子供の面倒をみているようです。

子供たちにはただ走るだけでなく、縄とびや、ハードルくぐりなどさまざまな動きをさせていきます。
子供たちと一緒になって楽しむ学生たち。

彼らに聞いてみました。
宮嶋「最先端のことをしているって言う意識はありますか?」
学生たち「いえ」「知らなかった」「ぜんぜんそんな意識なかったです。」

4年前に始まった先駆的な試みは、今では当たり前のこととして学生たちに受け入れられているようです。
世界一と言われる日本の学校体育施設。眠れる資産をいかに生かしていくか、可能性はまだまだ広がっていきます。

(制作スタッフ 撮影:藤田定則、 音声:大矢慎吾、 編集:松本良雄、 MA:濱田豊、 選曲:伊藤大輔、 ディレクター:宮嶋泰子)


◇◆番組を作り終えて◆◇
取材をしながら、正直な話、所沢に住みたくなりました。それほど恵まれた環境です。
早稲田大学出身の私も、取材をするまで、これほど大学が開放されているとは知りませんでした。でも考えてみればこれがあたりまえの姿ですよね。欧米では大学に市民が集っているのが普通です。最初は一般市民をキャンパスに入れるとは研究の邪魔になると、他の教授たちから猛反発を食らったそうですが、慣れてしまえば何と言う事はないですよね。大学にある様々な施設を市民が使う。とても素敵なアイディアだと思いました。
日本はこれまで市民の税金を使った「箱物行政」が主で、何かが言われるとすぐ施設を作るだけで終わってしまうという悪しき伝統がありましたが、今回の例のように、あるものをうまく利用していくことが、日本再生の基本のような気がします。WASEDA Club 2000 の前会長である佐々木秀幸さんがおっしゃった「全国の大学でこれをやるべきだと思っています、特に国立大学はね。」という言葉が、とても印象に残りました。

付録
日本全国で総合型地域スポーツクラブを立ち上げようと思っていらっしゃる方、さらには、大学のあり方を変えてみたいと思っていらっしゃる方のために、佐々木秀幸さんに伺った「クラブ設立までの苦労話」を次のページでご紹介しておきます。

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