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8月29日 世界最高記録保持者は二人いる?ジョイス・チェプチュンバ

陸上競技では競技場で行われる種目に関しては「世界記録」といいます。でも、ロードで行われるものの場合、天候やコースに記録が左右されるので日本では「世界最高記録」と呼んでいます。英語では、「ニュー ワールド ベスト タイム」 と表現するそうです。

現在の女子マラソンの世界最高記録は、これまでこのコラムでもご紹介してきた、ケニアのテグラ・ロルーペ選手が昨年ベルリンで出した、2時間20分43秒です。ところがこの記録を、世界最高とは認められないと反対する人々が現れたのです。
ロルーペはこれまでに世界最高記録を2度マークしていますが、いずれも男女混合レースで記録したものです。

98年のロッテルダムも、99年のベルリンも、ケニアの同僚の男子選手数人に守られるようにして走り、ロルーペはさながら騎士に守られる女王様。男子選手たちはポイントごとにスプリットタイムをロルーペに伝え、交代で彼女の風よけになって走りました。ロルーペが前に飛び出して独走態勢に入ったのは、41キロ過ぎ。それからの彼女の走りたるや「身長153センチでどうしてこんなに大きなストライドなの!」とあきれてしまうくらいダイナミックでした。

こうして生まれた2時間20分47秒と、2時間20分43秒の新記録。



チェプチュンバはロルーペの練習パートナー

「あんな男子の手助けを借りて作った記録は世界最高記録とは呼べない。女子だけで走って作った記録が世界最高だ。」と、ロルーペの記録に文句を付ける人々が大会主催者の中にも現れ始めました。
それがロンドンマラソンでした。ロンドンマラソンは男女が別々にスタートする時間差マラソンです。

99年4月のレース、この段階で、主催者は独自の見解で女子の世界最高記録を99年1月の大阪でシモンが出した2時間23分24秒としていました。

99年のロンドン、終盤まで競り合ったのはメキシコのアドリアナ・フェルナンデスとケニアのジョイス・チェプチュンバ。最後このレースをものにしたのはロルーペの練習パートナーでもあるチェプチュンバでした。タイムは2時間23分22秒。
独自解釈で「世界最高記録」です!!

チェプチュンバはこのタイムで総額二十三万ドル(約二千七百六十万円)の高額賞金を手にしたのです。



 

オシャレなチェプチュンバはママさんランナー

いやはや・・・・すでにこのコラムで何度も登場していますが、マネージャーのワグナー氏はさすが数学の教師だけあって、計算がうまい!!どのレースにどの選手を出せば有利か、ちゃんと考えているんですね。敏腕ぶりには脱帽です。

それにしても不思議なのはこの独自の解釈による世界最高です。大会関係者に話を直接聞いていないので何とも言えませんが、99年4月の段階では高橋尚子選手が、バンコクで2時間21分47秒をマークしているのに、なぜ、あの記録を独自解釈の世界最高としなかったのでしょう。あのバンコクのレースも女子だけで走っているのにねえ。何を基準にしているのかよくわかりませんね。

ついでですので、ちょっとチェプチュンバについてお話ししましょう。

彼女は、ケニアから94年にドイツのワーグナーさんのところにやってきた選手です。ひとり息子をケニアにおいて単身ドイツにやってきました。
もうすぐ9歳になるという息子と、二日に一度は電話で話をするそうです。ヨーロッパからケニアへの国際電話代は馬鹿にはなりません。かわいい息子の声を聞けばついつい話しも長引きます。
「電話代がかかって仕方がないわ」とぼやくことしきり。そう言いながらも嬉しそうな顔でした。

おしゃれで、おしゃべりで、それでいて、家事をてきぱきとこなすチェプチュンバ。ロルーペの髪を今のスタイルに結ってあげたのもチェプチュンバ。そう、私たちがドイツの家にお邪魔したとき、おもてなしのチャパティを作ってくれたのも、彼女でした。とっても魅力的な女性です。



家事はとっても上手

「14人兄弟姉妹の末っ子だから、甘えん坊なんだ、もう少しがんばれば、ロルーペくらいの記録は簡単にだせる素質があるのにな」と、ワグナーさんは言います。何といっても、ロルーペが世界最高記録をマークする前はマラソンのケニア記録をもっていたのですから。
ロルーペよりも若く見えますが、実は2歳年上で、現在29歳。
ケニアママさんランナーの星なのです。

チェプチュンバと言えば、1997年の東京国際で伊藤真貴子選手と38キロの四谷の坂で競り合い、あっけなくトップを譲ってしまったシーンが印象に残っているのですが、あれから、彼女はかなり粘り強くなったようですよ。トラックのスピードはそれほどありませんが、マラソンに対しては優勝回数も増え、自信をつけているようです。

基地をドイツに置くロルーペ、チェプチュンバ、そして、日本育ちのワンジロと、今回のケニアマラソン陣は今までになく充実しています。果たしてケニア旋風は吹くのか?シドニーのレースをきっと面白くしてくれる3人だと思いますよ。


ジョイス・チェプチュンバ
1970年11月6日
160センチ 52キロ
ベストタイム 2時間23分22秒

1996年 アトランタ五輪 途中棄権
1997年 ロンドンマラソン 優勝
1998年 シカゴマラソン 優勝
1999年 ロンドンマラソン 優勝
1999年 シカゴマラソン 優勝
 
スポーツ古今東西
 
モスクワ大会に始まり、ロス、ソウル、さらには冬の大会も経験し、シドニー大会がなんとオリンピック取材10回目になる宮嶋泰子アナウンサー。取材ではその選手の持っている「根」を掘り起こそうと歳甲斐もなく?大声を張り上げて走り回り、スポーツを縦から見たり横から見たりと大忙し!他とは一味違うスポーツ企画をこのコーナーでぜひお楽しみください。
 
 
    
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