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4月25日   ワールドプロレスリング実況三銃士の闘魂コラム#73
〜私におけるプロレスの恩師〜

私のプロレスにおける恩師、木村健吾さんが
新日本プロレスを退団しました。
私が初めてプロレスを実況した時の解説が木村健吾さんでした。

忘れもしません。
2003年2月16日両国国技館。
極度の緊張でガチガチだった私の「なげぱっなしジャーマンのような振り」に
見事な受身を取ってくれた木村健吾さんの解説。
言葉が出てこない、頭が真っ白になる、
でも、放送席には木村健吾さんが居てくれる。
「実況」はアナウンサーを、断崖絶壁のがけっぷちに立たせます。
その追い込まれた状況で私を救ってくれたのは、まぎれもなく、
ファイト1発のCMのようなマッチョな木村健吾さんでした。

木村健吾さんの解説は、私の拙い実況における最後の命綱でした。
「プロレスラー木村健吾」には、こんなエピソードがありました。

木村健吾氏(吉野真治の師)

2003年3月7日の新潟市体育館。
「イナズマカウントダウン9」と銘打たれた木村健吾さんの
引退カウントダウンの興行。
その日、木村健吾さんはワールドプロレスリングの解説を務めながら、
自らも第3試合に出場する予定でした。

ワールドプロレスリングの収録があるときは、通常、
アナウンサー、解説、スタッフが試合開始時間の1時間前に
打ち合わせをすることになっています。

そして、この日も打ち合わせをやろうとした、
まさにその瞬間、木村健吾さんが我々の前に姿を現しました。
私は笑いを堪えるのに必死でした。
というのも、木村健吾さんは、黒のリングシューズを履き、
黒のショートパンツを身にまとい、上半身裸という格好だったからです。
私を含め、その場にいたスタッフ全員が、
「え、健吾さん、その格好で打ち合わせをするの?」と感じていました。
すかさず、私が突っ込みました。

吉野「健吾さん、寒くないですか?ジャージとか着なくて大丈夫ですか?」
木村「ジャージ忘れたんだよ。若手に借りようにも忘れたなんて言えないしね。」
吉野「じゃあ、タオルでも羽織っていたらどうですかね?」
木村「あ、そうだね、じゃ、タオルを借りてくるよ。」

ということで、上半身裸の黒パンツ状態に
タオルを羽織った姿で打ち合わせをすることになりました。
この時点で、パイプ椅子に座った、上半身裸の黒パンツ状態の
木村健吾さんを笑わずに直視することはできなかったのですが、
さらにとんでもないことが起きました。

解説の方は大体、この時間帯にお弁当を食べることになっているのですが、
ここで、問題が起きたのです。
いつもはお弁当を快食する木村健吾さんが、お弁当を見つめたまま、
食べようとしないのです。
打ち合わせ内容にも気もそぞろで、
お弁当を直視したまま微動だにしないのです。
私は聞きました。

吉野「健吾さん、お弁当召し上がってください。」
木村「いや、俺、今日、第3試合だから今お弁当食べると、
試合中に吐いちゃうかもしれないから我慢しておく。」

そうなんです。木村健吾さんは目の前のお弁当の誘惑にプロレスラーとして、
必死に耐えていたのです。
黒いリングシューズに、黒いショートパンツを履き、
地元の農協の名前が入ったタオルを肩に羽織ったまま、
目の前のお弁当の誘惑に負けないとする木村健吾さん。
そんな木村健吾さんに私は悪魔のような一言を発しました。

吉野「健吾さん、少しぐらいなら消化できるんじゃないですか?」
「空腹ですと力も出ませんし、消化しやすい物だけでも
召し上がったらどうですか?」

私は当然、木村健吾さんは私の申し出を固辞するものと考えていました。
ところが、

木村「そうだよね!!少しぐらいなら良いよね!!
消化に良いものだけ食べるよ!!」

木村健吾さんはそう言うと、お弁当を広げ、
消化に良いものだけを選んで食べ始めました。
そして、打ち合わせが終わり、いよいよ中継が始まる時に、
私は衝撃的な光景を目の当たりにしました。
なんと、木村健吾さんのお弁当が完食されていたのです。
豚カツや、ウインナー、餃子といった油物の姿はそこにはありませんでした。

吉野「え、健吾さん、全部食べたんですか?」
木村「いや、食べ始めると止まらなくてね!!でもしっかり噛んで食べたよ!!」

その日の試合、木村健吾さんはエル・サムライに
稲妻レッグラリアートを炸裂させ、見事なフォール勝ちを収めました。

私はお弁当を食べるかどうか、必死に悩む、
そんな木村健吾さんが大好きでした。
その木村健吾さんが引退試合の際に述べた言葉を
ここで引用させて頂きます。

「若い人に言いたいことは、新日本プロレスのリングは闘いを見せる場です。
良い闘いを見せることができなくならば、去るのはプロとして当然です。
それを忘れないで欲しい。
私は新日本プロレスが業界でナンバーワンだと思います。
新日本が崩れればプロレス全体が倒れる。
これからも若い人が支えてくれることを願っています。」

健吾さん、本当にお疲れ様でした。

健吾さんの想いも込めて、プロレス実況に精進。
 
 
    
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