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身長
177cm
出身地
埼玉県さいたま市
出身校
県立浦和高校→
早稲田大学
入社年月日
1992年4月1日
星座
天秤座

2015/12/11  ニュースは現場で起きている③ マーシャル諸島、温暖化最前線の島へ

地球温暖化による気候への影響は年々激しさを増しています。
日本でも夏の暑さは、例えば30年前とは比べものにならなくなっていますよね。
今年は台風も多く発生しました。1月から11月まで11か月連続で台風が発生したのは実に50年ぶりのことだそうです。
私自身、毎週のように台風取材に行っていましたが、毎回驚かされたのが、台風が日本列島に接近するにつれて勢力を増して来ることでした。
日本近海の海水温が高いために、これまではあまり見られなかった現象が起きているのだと思われます。

世界に目を向ければ、今年、ペルー沖の海水面の温度が上昇するエルニーニョ現象が、過去と比べものにならないくらい激しくなっています。今年のエルニーニョは、その面積がきわめて広く、水温自体も非常に高くなっていて、その規模の大きさから、モンスターエルニーニョと呼ばれています。

そのモンスターエルニーニョが起きている海域では何が起きているのでしょうか?
私は報道ステーションの取材で、赤道近く、太平洋の中央に浮かぶ、小さな島々から成る国、マーシャル諸島に向かいました。


マーシャル諸島

マーシャル諸島へは、グアムからだけでも3回の乗り継ぎが必要で、日本からですと、首都マジュロまで丸1日移動に時間がかかります。

マーシャル諸島の多くの島は、サンゴ礁が環状に連なる美しい自然に恵まれています。しかし、最近は温暖化による海面上昇の影響で様々な被害が出ています。実際に今回の取材で、マジュロの海岸沿いにある地元の方々のお墓が高波で流されたり、海沿いの建物が破壊されるという被害も目の当たりにしました。


海面上昇で流された墓

そして、マーシャル諸島の中でも、最も深刻な海面上昇の被害を受けているのが、首都のマジュロから週一回の定期便の飛行機で1時間ほどのところにある、周囲わずか3キロほどの非常に小さな島、キリ島です。


キリ島

キリ島は、かつては無人島でした。マーシャル諸島の中でも、ほかの島のような豊かな環礁ではなく、外海の荒波が打ち寄せる小さな島で、だれも住み着かなかった場所です。
戦後アメリカはマーシャル諸島の一つビキニ環礁で核実験を行うために、住民たちをビキニ環礁から追い出しました。そして、この絶海の孤島に人工的にヤシの木を植えるなどして無理やり作った集落に、ビキニの住民を強制移住させたのです。

ビキニ環礁から移住させられた住民は、環礁がなく伝統的なカヌーを使った漁も出来ず、狭くて生活しづらいキリ島での生活に不満がたまっていました。そこに近年は、温暖化で毎年のように海面上昇の被害に悩まされるようになっていました。

さらに今年はモンスターエルニーニョの影響で、キリ島でとんでもない事態が起きていました。一年で最も潮位が上がる2月の大潮の際に、押し寄せる大波がついに島の北側の護岸を砕き陸地に侵入、海沿いのヤシの木を次々と根こそぎなぎ倒し、住宅街に大量の海水が流れ込んだのです。キリ島の全体の実に9割の土地が、人の腰のあたりまで海水に浸かるという大変深刻な被害に見舞われていたのです。


なぎ倒されたヤシの木

取材中にその際の動画を撮った住民、ウェスリーさんに出会うことができました。
動画では、住宅街から教会、そして空港の滑走路まで、一面が巨大な湖のように海水に浸かっていました。
さらに海水が流れ込んでくる場所では、まるで津波のように大波が海岸線を乗り越え、次々と内陸に遡上していました


ウェスリーさんの撮った冠水の様子

この甚大な海面上昇の被害を受けて、この夏、ついに住民たちは重大な決断をしました。
「キリ島を捨てアメリカに移住する。そのための補償をアメリカに認めさせる」という決議を島の議会で採択したのです。

住民たちはもちろん、自分たちの故郷である自然豊かなビキニ環礁へ戻ることを望んでいます。しかし、未だに核実験による放射能の影響は強く残り、人が定住出来るまでには除染は済んでいません。
そして、強制移住させられたキリ島は今や沈みかけています。さらに海面上昇の被害はキリ島だけではなく、マーシャル諸島の他の島々でも深刻になっています。
こうした中、核実験も温暖化による海面上昇も、いずれもその原因を作った超大国アメリカに責任を取ってもらい、アメリカ自体に移住させて欲しいという決議を作ったのです。

私たちがキリ島を訪れていた時、ちょうどその決議への賛否を最大の争点にした選挙が行われていました。
投票日は今年の異常気象を象徴する天候に襲われました。未明から大雨が降り続き風も強く海は大荒れでした。
テレビもラジオも電話もインターネットもなく外界から遮断されたキリ島ではその時はわからなかったのですが、まさに発達中の熱帯低気圧が島を通過していました。この熱帯低気圧はのちに台風26号になり日本の南海上まで北上しました。
嵐の中、選挙は決行されました。投票に臨んだ島の方々に直接話を聞いてみると、アメリカに移住することには不安はあるものの、海面上昇の脅威にさらされる島からは一刻も早く脱出したいという声が圧倒的でした。

移住を推進する候補の一人は私たちの取材に、「かつては島で聞こえる波の音は心地いいものだった。それが今は島を飲み込む恐怖の音に変ってしまった。だから、もう島を出るしかない…」と静かに語りました。

実際、夜静まり返ると、島中にはドーンという激しい波の音が響き渡っていました。
標高が最も高いところで2メートルほどしかないこの島では、もしも、これまで以上の大波が襲って来れば島全体が水没し逃げる場所はなくなります。暗闇の中、まさに海に飲み込まれる恐怖を肌で感じた瞬間でした。


キリ島での夕日

選挙の開票作業は時間がかかりましたが、移住賛成の議員が多数を占めた模様です。しかし、実際にアメリカがキリ島の住民の声にどう対応するのかはわかりません。

取材の最後、海面上昇の動画を撮影したウェスリーさんが、私たちのカメラの前で自らこう切り出しました。
「世界中の人々に伝えたいことがある。この島ではこんな災害が起きるようになり、ビキニの人は故郷も奪われ、私たちは行くところがない。この先どうなるかもわからない。一体我々はどうしたらよいのだろうか?この現実を見てみなさんに考えて欲しい…」

この言葉は、取材を通して私の心に一番残りました。
考えてみれば、私たちの何気ない社会生活での営みが温室効果ガスを排出し、結果的に彼らの島を奪う原因にもつながっているのです。

いま私たちの暮らす地球が沈みかけています。
今こそ人類の英知を結集して、なんとかこの問題を解決しなくてはならないのではないでしょうか?
温暖化は待ったなしのところまで来ています。

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