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身長
177cm
出身地
埼玉県さいたま市
出身校
県立浦和高校→
早稲田大学
入社年月日
1992年4月1日
星座
天秤座

3/15    3・11の重い教訓…。そして新しい対策

東日本大震災から2年が経ちました。
あの日、多くの方が迫りくる巨大津波にのまれ、命を落としました。
災害大国である日本で暮らしていく私たちは、そこからさまざまな教訓を学び、それを今後に生かして伝えていかなければならないのだと思います。

これまで私は報道ステーションのロケなどで被災地をたびたび取材し、当日のことを様々な方にインタビューしてきました。
そして、九死に一生を得て生還した方々から、「津波が目前まで迫るまで逃げなかった…」という多くの証言を聞きました。
皆さんが直前まで逃げなかった理由の一つに、あそこまで大きな津波が襲ってくるとは思わなかったという証言がありました。

当時、気象庁の地震発生直後の津波予想高さは、宮城6メートル、岩手・福島3メートルと過少に見積もられて発表されていました。被災地では、この過小評価された第一報に影響されたという声が聞かれました。
気象庁は、津波の予想高さを地震の規模や発生場所に応じておよそ10万通りのシミュレーションの中からコンピューターで選び発表しています。
しかし、東日本大震災では地震の規模が想定よりも大きすぎて、地震発生直後にその規模を正確につかむことができず、マグニチュード9だった巨大地震をマグニチュード7.9と過少評価し、それに準じた津波警報を出してしまったのです。

岩手県大槌町では、「第一報で津波の予想高さを3メートルと聞いた。堤防が6メートル以上あるから大丈夫だと思った。」という声も聞きました。
皆さん、津波は堤防を越えてこないと思い込み、家にとどまって地震で散乱した家具などの後片付けをしていたのです。


大槌町の今

この過小評価された津波警報発表から、津波到達までは30分近くがありました。実は、その間、この津波予想高さを更新できるチャンスはあったのです。
地震発生からおよそ15分後の午後3時ごろ、岩手県沖およそ80キロに設置された東京大学などの海底圧力計が迫りくる巨大津波を捉え、それをリアルタイムのデータで東京の気象庁に送っていました。
このデータでは、沖合でおよそ5メートルの津波に相当する圧力の変化を観測していました。沖合での津波は沿岸に迫れば2倍3倍の高さにもなるとされていますので、この午後3時の時点で沿岸に向かって10メートル超の巨大津波が迫っていることを捉えた大変貴重なデータでした。

気象庁では当時、想定を上回る巨大地震の揺れや余震なども相次いでいたことから、極度に緊迫した状況にありましたが、この岩手沖の海底圧力計から送られてくるデータの異変に職員の一人が気づき、班長に異常を報告したそうです。
しかし、当時の気象庁では、沖合の海底圧力計のデータでは地震による地殻変動などの誤差を含み正確さに欠くという観点から、有事の際のマニュアルにその運用を入れていませんでした。
結局、当時の班長は、この貴重なデータを見ることなく、津波予想高さの更新はこの時点では行われませんでした。

そのおよそ10分後の午後3時12分、気象庁は、沿岸20キロほどの所に設置されたGPS波浪計のデータが異常な波高を示したため、あわてて津波予想高さの変更に動きました。
GPS波浪計は当時から運用マニュアルに入っていたのです。
午後3時14分、岩手県に津波が到達する2分前になって、気象庁はようやく各地の予想高さを2倍に引き上げました。


GPS波浪計

しかし、このころ、被災地各地では別の問題も起きていて、この津波予想高さの引き上げはほとんどの方に伝わりませんでした。
巨大地震発生の数分後に各地で街全体が停電し、テレビなどで津波の情報を取れなくなっていたのです。

岩手県大槌町では、地震発生後に停電が起き、テレビも映らなくなりました。通常であれば、大きな地震の後、テレビで情報をとるという方も多いと思いますが、それができなくなっていたのです。

大槌町役場では、当時相次ぐ余震で庁舎が倒壊する恐れもあるとして、職員は1階玄関前に集合し、そこで対策本部を立ち上げていたそうです。そこでは、ラジオで津波の情報を聞いていた方もおらず、だれも巨大津波が迫っていることに気づいていなかったそうです。少し歩いたところには高台もあるのですが、およそ30分間、職員の方々はその1階玄関前にとどまって対策を練っていたそうです。

そして、午後3時20分ごろ、津波が防波堤を越えて眼前に迫ってきた段階で職員の方々は初めて気づき、急いで庁舎の屋上に逃げたということです。しかし、間に合わず、町長をはじめおよそ30人の方が命を落としました。
大槌町全体では、巨大津波が迫っているという情報が届かない中、多くの方が低い場所にある家や職場にとどまり、巨大津波にのみこまれ、およそ1300人もの方が犠牲になりました。


当時の大槌町役場

この2年前の重い教訓に立って、今月7日から、気象庁では、新しい津波警報の運用を始めました。
マグニチュード8超の巨大地震の場合、津波の予想高さは数値では言わずに、巨大や高いと発表します。
また、沖合の海底圧力計などの津波観測データもリアルタイムで速報するようになりました。
当時の教訓をしっかりと生かし、少しでも多くの方に逃げてもらうというのが、今回の気象庁の津波警報更新の柱になっています

また、沖合の海底観測網も充実させるべく、現在、水深7000メートルにも設置可能な海底地震圧力計を量産中で、2015年度までに千葉県の房総沖から北海道の釧路沖までの150地点に計測器を沈めて、迫りくる巨大津波を沖合で事前に捉えようという動きも進んでいます。


海底地震圧力計

さらに停電対策として、今、被災地では、エリアメールの利用も進んでいます。エリアメールは、去年12月7日に宮城県沿岸に津波警報が出された際に効果を発揮しました。
エリアメールは、その場所にいるすべての人の携帯電話端末などに、津波警報などを一斉メールで知らせるものです。
今さらにそのシステムを進化させて、自治体からの一回の発信で、携帯電話会社にかかわらず、その瞬間そのエリアにいるすべて方の携帯電話端末やカーナビなどに津波警報を送ったり、ワンセグで海の方向をとらえた映像を送るというシステムの開発も進んでいます。

東日本大震災から2年。様々な分野で様々な対策が進められています。
私たちメディアも、新しい津波警報にしっかりと対応し、有事の際には少しでも多くの方に逃げて頂けるよう、訓練を続けています。

巨大津波から間一髪生還した方から聞いた言葉が、強く心に残っています。
「常日頃から地震や津波には神経を研ぎ澄ます。津波と聞いたら逃げるという思いを持ち続ける。」
あの時の教訓を無駄にしないためにもとても大切な言葉だと思いました。

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