森下桂吉

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ボイスサンプル
身長
168cm
出身地
愛知県常滑市
出身校
愛知県半田高校→
早稲田大学
入社年月日
1982年4月1日
星座
牡羊座

担当番組

スポーツ中継各種
◇ゴルフ、マラソン、水泳、柔道など

2009/4/3 思い出すたびに身の毛のよだつ失敗談?をひとつ

アナウンサーという職業柄、結婚披露宴の司会を頼まれることも多い。

静岡で開かれたその披露宴は、
財界・スポーツ界の大御所も列席する盛大なものだった。

司会の依頼を受けた当初、
その日は番組収録のスケジュールとぶつかっていたが、
上司に相談した結果「披露宴を優先すべし」との判断が下った。
披露宴当日、東京駅からは偶然にも、
静岡駅に停車する「ひかり」に乗ることができた。
東海道新幹線にまだ「ひかり」と「こだま」しか無かった時代の話。
静岡までノンストップの「ひかり」に乗れたのは本当にラッキーだった。
これで現地での時間にも少しゆとりができた。
車内では式次第を見ながら最後のチェック。
台本通りに進行するだけなら簡単だが、
それを少しでも心のこもったものにしようと言葉選びに集中する。

と、あっという間に静岡駅に到着。
慌てて資料をカバンに詰め込み「ひかり」を降りた。
しかしその瞬間、何かが足りないことに気がついた。
今にして思えば、それに気づいてしまったことが災難の始まりだった。
荷物棚に衣装一式の入ったバッグを置き忘れたのだ。
発車のベルは既に鳴り終わろうとしている。
今車内に戻れば間違いなくドアは閉まってしまう。
荷物は置き去りにして、式場で貸衣装でも借りようか。
しかし荷物はガラス窓を隔てて目と鼻の先。
20秒もあれば取って帰ることができる。このまま見送るのはあまりに悔しい。
瞬時にそう考えた私は、閉まり始めたドアの前に立ちはだかった。
「ドア付近のお客さん、離れてください!」ホームにアナウンスが響く。
しかし私はひるまず駅員さんを呼び続けた。血相をかえた駅員さんが走り寄る。
「一体どうしたんですか!」
「荷物を忘れました。30秒で帰ってきますからドアを閉めないでください!」
これで大丈夫だ。私は急ぎ車内に戻り、荷物棚からバッグを降ろした。
と、その時、窓越しに見る車外の風景がゆっくりと流れ始めた。
疑いようもなく「ひかり」は動き出していた。
全身から血の気が引くとはこのことか。

披露宴の開宴まで1時間余り。乗っている「ひかり」は静岡から遠ざかるばかり。
この先名古屋まで行って引き返したのでは、間に合わないどころか「宴もたけなわ」の予定時間になる。
仕事まではずして抜擢された大役。駅で降りそこなったなど、言い訳にもならない。
第一、どこへどんな顔を引っさげて帰ればいいのか。
いっそのことこのまま何処かに姿をくらまそうか。
これまでにも様々なピンチをきり抜けてきたが、今度という今度は絶体絶命だ。
頭の中で絶望感が渦巻いた。

そして次に、約束を守ってくれなかったJRへの怒りがこみ上げてきた。
こうなったら最寄の駅に緊急停車してもらうしかない。
パニック状態の私は車掌室に乗り込んだ。
「静岡駅で1分の遅れ。原因は、ドアの前にお客さんが立ちはだかり・・・」
電話連絡中の車掌さんの声が聞こえた。車掌さんが電話を切るなり私が叫ぶ。
「止めたのは私です。忘れ物を取ってくると伝えたのに、なんで出発してしまったんですか!どこでもいいから臨時停車してください!」
「バカなこと言わないでください。たとえ総理大臣でもそんな我が儘は通用しませんよ。第一、新幹線を1分遅らせただけでも大変なことなんですよ。さあ、ここに住所と氏名を書いてください。」
突然の攻守逆転。しかし私は、恐縮しながらも尚も懇願する。
「1時間後にどうしても静岡にいなければいけないんです。」
それにあきれ顔で答えた車掌さんの一言に私は耳を疑った。
「それはどうしようもありませんね。次の浜松で乗り換えて こだま で引き返すしかないでしょう。」
「えっ、浜松?」
なんとなんと、その時初めて知ったことではあるが、
静岡に停車しながら浜松にも止まる「ひかり」が日に何本か存在したのだ。
時刻表で調べると、静岡・浜松間は26分。
「こだま」で戻れば披露宴開始時刻の4分前に静岡駅に着くことになる。
式場は駅の目の前にあるホテル。なんとか間に合うかもしれない。

程なく浜松駅で「ひかり」が止まった。
訳あってギリギリになるが必ず間に合う旨を式場に連絡。
戻る「こだま」の中でタキシードに着替え、静岡駅から猛ダッシュ。
出席者の最後の数人が着席するのとほぼ同時にマイクの前に立つことができた。

「大変長らくお待たせいたしました。」 
はずむ息と動揺を悟られないよう渾身の落ち着いた声で始めたその後の披露宴は、あのドタバタが嘘のように、とても和やかで大いに盛り上がったものとなった。

深く反省。
そして神とJRに感謝。

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